Sustainabilityサステナビリティ
生物多様性の保全に向けた取り組み
基本的な考え方
人類の活動による地球温暖化、環境汚染、乱開発、乱獲等により生物多様性が急速に失われつつあり、生態系の維持が危機的な状況にあります。今、対応を怠れば、将来、生態系サービスを享受できないことにより社会全体が大きなダメージを受け、「持続可能な社会」が実現できなくなります。三ツ星ベルトグループは、これまで地球温暖化の抑止に向けてCO2排出量削減活動に取り組んでまいりましたが、生物多様性の損失もまた、社会全体にとって地球温暖化と同じく重要性・緊急性の高いリスクであると認識しています。
当社は、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)における「昆明・モントリオール生物多様性枠組」、日本政府の「生物多様性国家戦略2023-2030」を支持し、 マテリアリティの一つに「生物多様性の保全」を掲げ、水資源の保全をはじめとする課題毎にKPIを設定し種々の活動に取り組んでいます。
ガバナンスとリスク管理
三ツ星ベルトグループの生物多様性の保全活動に関するガバナンスとリスク管理プロセスは、「気候変動に関わる取り組み」と共通しております。
戦略
サステナビリティ会議において、TNFDが推奨する開示フレームワークに従って「生物多様性の保全」に関するリスクと機会の洗い出し、また、それらが三ツ星ベルトグループの事業活動に与えるインパクト評価を実施し、その結果を戦略と目標に展開いたしました。
事業活動と自然との関係
1) 自然への依存と影響
当社グループの生産拠点では、ゴム製品の加工において、熱媒として蒸気を、冷媒として水を使用しています。自然から供給される良質で十分な量の淡水がなければ、たちまち操業を中断せざるを得ない状況に陥ります。また、天然ゴムや綿、パーム油を加工したオイル等は、ゴム製品の製造において、非石油由来の原材料として活用されていますが、これらの供給が途絶えた場合、石油由来の原材料に依存せざるを得なくなり、資源枯渇のリスクが増大します。さらには、当社グループの主力製品である伝動ベルトおよび関連製品は、農林水産業、鉱業、半導体、自動車、電機、機械、食品、物流業界など、様々な分野で広く活用されています。このことから、当社グループの事業活動は水や自然素材だけではなく、その他多くの生態系サービスにも依存していると認識しています。
ENCORE※1 を使って、当社グループの事業活動(ISICセクション:製造業、ISICディビジョン:ゴム・プラスチック製品製造、ISICグループ:ゴム製品製造)の生態系サービスへの依存を調査しました。調査の結果、"High"以上のレベルで依存している生態系サービスはありませんでしたが、「浄水」、「水流調整」、「洪水緩和」、「暴風雨緩和」の四つの生態系サービスに"Medium"レベルで依存していました。 同様にして当社グループの他の事業活動(プラスチック製品製造、金属加工)、及び取引先の事業活動(合成繊維製造、化薬品製造、プラスチック一次成形、紡糸・製織、ガラス製品製造)についても調査を行っております(下表参照 )。

当社グループの生産活動では、エネルギーを含む種々の資源(水や天然資源など)を消費し、廃棄物、排水、排気、排熱、騒音、臭気などを排出し自然環境に影響を及ぼしています。ENCOREで特定した当社グループ事業活動(ゴム製品製造)の生態系への影響は、"High"以上のレベルで影響している生態系サービスは存在しませんでしたが、「生活妨害」、「温暖化ガス排出」、「大気汚染」、「固体廃棄物」の4つの生態系サービスに対して"Medium"レベルで影響している結果となりました。他の事業活動、及び取引先の事業活動についての調査結果と合わせて下表に示します。

これらの結果を踏まえ、当社グループでは、自然資本の持続可能な利用と環境への影響低減に向け、引き続き、資源の効率的な利用や環境への影響緩和を考慮した生産活動、製品設計などの具体的な取り組みを進めてまいります。
※1 ENCORE(Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure)は、金融機関のネットワークである「自然資本金融同盟」と国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCMC)などが共同で開発したオンラインツールです。このツールは、組織が自然関連リスクへのエクスポージャーを調査し、自然への依存とその影響を把握・評価するために活用されます。
2) 事業活動地域と生物多様性にとって重要な地域との接点
三ツ星ベルトグループの製品ライフサイクルを考慮した事業活動地域と、生物多様性の保全にとっての重要地域の接点を調査・特定しました。具体的には、事業活動地域として、①当社グループの14生産拠点の所在地域、②原材料である天然ゴム・綿花の生産地域、③原材料・エネルギー源である原油の生産地域を選択しました。生物多様性の保全にとって重要な地域には、生態系の完全性が失われつつある「ホットスポット」※2 と呼ばれる地域、絶滅危惧種の保護が必要とされる地域(AZE site※3)、水ストレスの高い地域※4 を選択しました。
事業活動地域 | ホットスポット | AZE site | 水ストレス | ||
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生産拠点 | 神戸事業所 | 日本 | ● | ||
四国工場 | 日本 | ● | |||
名古屋工場 | 日本 | ● | |||
綾部事業所 | 日本 | ● | |||
滋賀工場 | 日本 | ● | |||
三ツ星コード㈱ | 日本 | ● | |||
西神 | 日本 | ● | |||
MBL (USA) CORPORATION | アメリカ | ● | |||
PT. MITSUBOSHI BELTING INDONESIA | インドネシア | ● | |||
PT. SEIWA INDONESIA | インドネシア | ● | |||
STARS TECHNOLOGIES INDUSTRIAL LIMITED | タイ | ● | |||
蘇州三之星機帯科技有限公司 | 中国 | ● | |||
MITSUBOSHI POLAND Sp.z o.o. | ポーランド | ||||
MITSUBOSHI BELTING-INDIA PRIVATE LIMITED | インド | ● | |||
天然ゴム生産地域 | タイ、インドネシア、ベトナム | ● | ● | ||
綿花生産地域 | インド、パキスタン | ● | |||
石油・天然ガス採掘地域 | 中東アジア |
当社グループ各拠点の事業活動に伴う水消費および排水・排気、また廃棄物による環境汚染は生態系に影響するものと認識しています。加えて取引先の事業活動も生態系に影響するものと認識しています。具体的には、天然ゴムの生産において土地利用による森林破壊が影響し、綿花の生産において栽培に要する水消費、農薬による環境汚染が生態系に影響すると考えています。天然ゴム、綿花については、既に国際的な環境課題として取り上げられ、その改善に向けていくつかのイニシアティブが立ち上げられており、当社グループの事業活動において最優先で取り組むべき課題であると考えています。また生産活動における水消費量の削減活動は、活動の主体となる日本国内の生産拠点が全て生物多様性のホットスポットに所在することから生物多様性の保全にとっても重要な施策となるため、その目標を確実に達成してまいります。
※2 ホットスポットとは1,500種以上の固有維管束植物 (種子植物、シダ類) が生息しているが、原生の生態系の7割以上が改変された地域のことです。
※3 AZE siteとは、生物多様性イニシアティブAlliance for Zero Extinctionにて開示されている、地球上で最も絶滅が危惧されている1,483種の個体群が最後に残っている地域のことです。
※4 水ストレスの高い地域は、World Resource InstituteがAqueductのWATER RISK ATLASにて開示されている"Water Stress"において、"Extremely High"に分類された地域としました。
シナリオ分析とリスクと機会、戦略
三ツ星ベルトグループの事業活動地域と生物多様性の重要地域の関係、また下記表1に示したシナリオを考慮して、洗い出したリスクと機会およびその対応施策を表2 にまとめました。シナリオの内容は、開示されている生物多様性に関するレポートやWorld Resources InstituteのAqueductから得られた情報を基に検討し、 2030年と2050年における自然環境と社会の状況に展開しました。
表1 生物多様性の保全状況から見た近未来のシナリオ
生物多様性が保全されるシナリオ | 生物多様性が喪失するシナリオ | |
---|---|---|
2030年 | 人による環境破壊が停止し、環境が自己修復を開始する | 現在に比べ、生物多様性にとって需要な地域が拡大する |
森林破壊や気候変動由来の災害が現在より減少する | 環境破壊により、気候変動棋院の災害規模が増幅する | |
全ての産業の土地開発に対して厳格な環境アセスメントが実施される | 現状と同じあいまいな環境アセスメントで土地開発が拡大する | |
生物多様性が回復する中、水ストレスは人口増加など他の社会的要因で悪化する | 生物多様性の喪失と相まって、水ストレスの悪化が促進される | |
割高な環境配慮型製品が需要の主流となる | 環境配慮型製品は価格競争により市場から排除されていく | |
生態系サービスは安定して供給され、それを活用する個人・会社・地域・社会は安定する | 生態系サービスの提供が不安定になり、品不足、物価高騰、地域紛争等が現状より増加する | |
2050年 | 環境の自己修復が進行し、現在よりも豊かな生物多様性となる | 2030年に比べ、生物多様性にとって重要な地域が拡大する |
森林破壊や気候変動由来の災害が2030年より減少する | 気候変動由来の災害が2030年よりさらに増幅される | |
全ての土地開発に対してさらに厳格な環境アセスメントが実施される | 全ての産業の土地開発に対して、ようやく厳格な環境アセスメントが一般的な基準となる | |
生物多様性が回復する中、水ストレスは人口増加など他の社会的要因で悪化する。 | 生物多様性の喪失と相まって、水ストレスの悪化がさらに促進される | |
環境に配慮されていない製品は市場から淘汰される | 割高な環境配慮製品が、ようやく需要の主流となる | |
生態系サービスは安定して供給され、それを活用する個人・会社・地域・社会は安定する | 生態系サービスの提供が停止するようになり、品不足、物価高騰、地域紛争等が2030年よりさらに増加する |
表2 生物多様性の保全におけるリスクと機会

環境配慮型製品の開発に取り組まないことは、新規の事業機会 を失うだけでなく、既存の製品需要も減少させるという財務的影響を発生させます。気候変動対応においてカーボンフットプリントの大きな製品が市場から排除されるのと同様に、生物多様性の保全に悪影響を及ぼす製品は市場から排除されていきます。実際に、2023年6月にはEUの森林破壊防止規則(EUDR)※5が発効され、欧州市場への輸出の際に当該製品が森林破壊に繋がるものではないことを保証することが求められることになっています。
一方で、水ストレスの高い地域での水利事業は、今後ますます活発になっていくと予想されます。当社が提供する遮水シートとその施工サービスは、日本国内では水利事業において既に広くご採用いただいていますが、現状においては、海外の水ストレスの高い地域への展開はほとんどできておりません。主力製品である伝動ベルトの販売網を活用し、遮水シートおよび施工サービスの水ストレスの高い地域への事業展開を行ってまいります。
水消費量の削減に取り組み、その状況を適切に開示していくことは、気候変動対応におけるCO2排出量の削減・算定・開示と同様に、事業活動にとって重要な施策であると考えています。当社におけるこれまでの取り組みから、水消費量削減の施策として冷却水循環システムを使ったリサイクル水の活用が有効であることが既に確認されており、このシステムを積極的に展開していくことで確実に水消費量を削減してまいります。
※5 世界の森林破壊・劣化に対するEUの加担を最小限に抑えることを目的として、事業者および貿易事業者がEU市場にて取引するコモディティ7品目(カカオ、コーヒー、パーム油、ゴム、大豆、牛、木材 およびその派生品)を対象に、森林破壊につながる製品の取引禁止やデューデリィジェンス実施を求める規則。中小企業では2026年6月30日から、中小企業以外では2025年12月30日から EU域内においてEUDR 基準に満たしていない製品の販売が禁止される。
目標
当社グループでは、綿や天然ゴムを使用しない製品仕様の開発は既に完了していますが、それらの製品では止むを得ず一部再生可能ではない原材料を使用せねばならず、資源枯渇を考えた場合、綿や天然ゴムは引き続き重要な役割を果たす原材料であると考えています。こうした背景から、今後、2023年度に策定・開示しました調達ガイドラインに基づき、綿や天然ゴムのサプライヤーに対して生物多様性の保全に配慮した事業活動を行っていただくよう働きかけていく計画としています。
2024年度の活動では、Saasを活用した取引先とのコミュニケーションツールを導入し試験運用を開始いたしました。また2025年、EUDRの適用開始に対応して、原材料として使用する天然ゴムが森林破壊に関与していないことを検証し、その結果をデューデリィジェンスステイトメントとして開示する計画です。これまで入手できなかった天然ゴムや綿の生産地情報を取引先と共有し生物多様性の保全に関する活動を取引先と共に実施してまいります。
水資源に関する目標については、 「水資源保全に関する取組み」の「指標と目標」 をご参照願います。